上下関係の厳しい日本にあって、皇弟とは、生まれながら君主と定められた兄宮とは違い、臣下でありながら万一の折には君主となる不安定な存在だ。 昭和天皇に関する本は多く、その人柄や苦労はよく知られるところだが、近代皇室で初めての皇弟として生きた秩父宮もまた、苦悩と努力の中に自らを日本に捧げた人物だった。
明治における幼少の頃、まだ皇孫の時代から丁寧に掘り起こされており、初めから明治天皇は兄宮とはっきり線を引いた配慮をした。 兄宮や、皇太子である父との家庭的な生活も充実した記述であり、たった一人の編入生となる陸軍幼年・士官学校での孤独、そして数少ない親友の一人が安藤輝三であり、 二二六事件と秩父宮との関係は本書で大きな部分を占めてる。 兵士や民間人と触れ合う機会が多く、憂国の気持ちから現状打破を願う宮と、立憲君主としての立場を重んじて憲法遵守の姿勢を崩さない昭和天皇の対立は非常に興味深い。 結核によるその死まで、著者の入念な取材によって宮の思想を浮き彫りにするよう書き連ねられている。
努力家であり特別な存在でもあった秩父宮は、しかし周りへの反発からか、わがままな言動があり、他人への思いやりを欠くことがあった。 そういったマイナス面も隠すことなく、また、大正天皇・皇后、勢津子妃や三笠宮など広く皇族の人間的な記録を含んでおり、時代や昭和天皇についても多くの新しい発見がある非常に豊かな伝記だ。