1141 年も過ぎようとする頃、内戦により焼かれた修道院から2人の修道士がシュルーズベリに逃れてきた。丈高い年かさの修道士ヒュミリス(謙虚の意)は十字軍の勇士であり、深手を負った身で生まれ育った地に近いシュルーズベリを目指したのである。年若い修道士フィデリス(忠誠の意)は口がきけなかった。
ヒュミリス、俗名ゴッドフリッド・メアスコットは従軍前に当時6歳だった少女ジュリアンと婚約したが、帰国後、修道院に入る前に婚約を破棄していた。その知らせを告げるためにジュリアンのもとにつかわされたゴッドフリッドの従者ニコラスは、美しく成長したジュリアンに心を奪われるが、思いを胸に秘めて屋敷を去る。ゴッドフリッドを訪ねあてたニコラスはジュリアンへの思いをもとのあるじに告白し、許しを求める。
婚約解消後、修道院に入ったはずのジュリアンは修道院に着く直前、かき消すように消えていた。ジュリアンはどこに? ヒュミリスは? そして、ニコラスの思いは?
殺人事件はなく、ひとりの女性の失踪をめぐる物語であり、半ば近くで予測はついたが、にもかかわらず、いつものとおり、物語の世界に引き込まれて一気に読んだ。
謙虚と忠誠、この世から消え去ろうとする命、秘められた思い……そして、よみがえり……胸の熱くなる佳品であった。ヒューとアライン、マグダレン修道女など、おなじみの人物たちの活躍も読者を楽しませてくれる。
カドフェル・シリーズを読んでいつも思うことだが、読み終わると温かさに包まれ、加えて本作には暗闇から光が差すような、そんな感じさえした。
シリーズの中でもとりわけすぐれた作品である。