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5 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
枯淡と色香とを両立させ、濃密な能世界を描き切った寂聴さんよ、永遠なれ,
By
レビュー対象商品: 秘花 (新潮文庫) (文庫)
絶世の美童として、時の最高権力者である二人の男からの寵愛を一身に浴び、わが世の春を謳歌していた世阿弥の青年時代と、新将軍にうとまれ、実の甥に一座の人気もさらわれて、72歳で佐渡島へ流刑にされた過酷な最晩年のコントラストが、流麗な日本語で淡々と描き出される。言葉の美しさもさることながら、85歳の出家した女性の筆とも思われない匂い立つような上品な色香が感じられて、さすがに戦後日本文学で奮闘してきた寂聴さんだと、改めて感服させられる。特に後半、それまでの世阿弥の独白が、佐渡島で彼の死をみとることになる女性、沙江の独白に転調されるところが、物語をさらにドラマティックなものにしている。聴力に次ぎ視力も失い、黙想に明けくれる静寂の日々。生き抜いてきた歓喜に満たされ、天へ召されていく時を待望する世阿弥の姿は神々しいほどに美しく、彼の最期は本当にこうしたものだったのかもしれない、と胸が熱くなってくる。
13 人中、11人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
湘南ダディは読みました。,
By 湘南ダディ (藤沢市鵠沼) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 秘花 (単行本)
本作は佐渡へ遠島された能楽の鬼才、世阿弥の晩年を描いたもので読み終わりますと人間の晩年の潔い生き方についてしみじみと考えさせられる作品です。世阿弥は、始祖である観阿弥に天才として育てられ類稀な美貌から、時の将軍義満や当時の学識芸能の一人者であった摂政、二条良基准后から稚児として寵愛をうけこの2大パトロンの庇護の下、大衆のものであった猿楽を幽玄の芸にまで深化させますが義満や准后の死後、芸敵の他流派からの怨嗟もあり、座長を長男元雅にゆずり出家するも田楽を好んだ将軍義教には御所への立ち入りを禁じられてしまいます。 世阿弥には元雅、元能、娘千浪の子がありましたが元能は出家しその後元雅は伊勢安濃で人手にかかり客死してしまいます。そして72歳になった時、妻も供の同道も許されず、一人佐渡へ遠島されます。まさに人生と芸道の絶頂から地獄へと突き落とされ、名作俊寛を地で行くように当初は孤独と身の不幸を嘆き悲しむのですがやがて沙江という最後の10年を共にする女性を得てから世阿弥は悟ったように佐渡での生活を生き抜いていきます。 わが命の果てをしっかり見極め、息を引き取るまで後の世で能を鑑賞してくれるであろう見知らぬ有縁の人々のために新しい能を書き残そうと決意するのです。 折があれば、一代の名人芸を島民に披露し耳が不自由になり目が見えにくくなっても、新作「金島書」を書きます。そして新作が思い浮かんだといって、眼が見えるように自ら「秘花」としたため倒れるのです。沙江は、世阿弥の遺骨をさびしくなると少しずつ食べながら守り世阿弥が言ったとおり、訪れてきた次男の元能に、在りし日の世阿弥を語ります。 80歳台の既に半ばの瀬戸内寂聴さんがこれだけの史実を丹念に調べられ、男と女の情念の果てを描きつくされたそのエネルギーに敬服します。老いとは、人生とは、死とは、といった命題にあらためて思いを寄せさせてくれる作品です。
21 人中、16人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
「世阿弥」へ精力傾注の大作,
レビュー対象商品: 秘花 (単行本)
いわれなき罪により佐渡へ送られた後、世阿弥は晩年をどう生きたのか?……足利義満の寵愛を受け、能楽を大成した世阿弥の生涯をドラマチックに描いた本作。特に後半、謎に包まれた佐渡配流後の暮らしに光明を投じた点が注目される。……義満の死を境に栄光から見放され、絶望と悲嘆の中、送られた佐渡。しかし、そこは自然に恵まれ、人情の篤い土地だった。72歳にして人生の再出発をかける世阿弥。島の女性・沙江をそばに置き、寺のひと間でつましい生活を送るうち、彼は心の平安を得てゆく。 芸一筋の情熱は常に失わず、耳目が不自由になってからも謡と仕舞の稽古を続け、新しい能の創作に取り組むなど日々エネルギッシュ。そして、死が訪れる8年余りの歳月のうちには、沙江との間に「花と幽玄がからみあい、とけあった濃密な夜の舞があった」……。 作者の描く世阿弥の晩年は、冬の日だまりのような静穏な明るさと温もりに包まれている。また、そこに甘く秘めやかなエロティシズムを注いでいるのはいかにも寂聴さんらしいところ。この歴史が沈黙する部分を照射し、島での生活をこれほどイメージ豊かに描いた作品は過去にないだろう。 一方、物語の冒頭から主人公が独白し、回想のスクリーンに浮かび上がらせる前半生についても見逃せない。とりわけ、余命いくばくもない父・観阿弥が病床で、世阿弥に対し芸の極意、能の奥儀を諄々と説く場面は感動的だ。 「……儚(はかな)さから言えば、人の命ほど儚いものがあろうか。……男時の栄えに驕らず、女時の悲運にくじけることなく、己が本分を切に尽すことだけだ」……。 こうしたまるで能の調べを聴くような華麗沈痛な語りのうちに、世阿弥の栄華と凋落の人間模様が色濃く写し出されてゆく。そして、作品は深遠な仏教思想や無常観が主音調となり、また、冷え寂びた謡曲が通奏されて余韻、余情を盛り上げていることも付記しておかねばならない。 完成までに4年の歳月をかけたという彫心鏤骨の大作。寂聴さんの「世阿弥」への精力傾注が作品の喫水線を深くしており、寂聴ファンのみならず能楽ファンにもお勧めの書だ。
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