怪奇小説といえば、主に英米の傑作短篇を集めたアンソロジーを通じてこれまで親しんできたのですが、いくつか読んでいくうち、一人の作家の短篇をまとまった形で読みたいと以前から思っていました。ブラックウッドもその一人で、今回本書によってその作品にじっくり触れることができました。
収録作品の前半は、空家や下宿屋に現れる幽霊や精霊を題材にした似たかんじの話が続きますが、それぞれ設定や演出が異なり、多彩な語り口が駆使されていて、ゴーストストーリーのバリエーションを味わえます。後半の諸作品は、怖いというよりも、人間の領域を超えた「大きな力」を描いた幻想性の高い物語が多かったように思いました。
全11篇中、わたしが特に印象深かった作品は「野火」と「転移」です。どちらも小品ですが、「野火」は壮大で神秘的なイメージをたたえた宇宙的広がりをもつ詩的掌篇で、自然への畏敬と超自然への想像力が美しく結実した稀有な作品。「転移」は家庭教師の女の独白を通じて徐々に不穏で不気味な怖さが醸し出されていく、ストーリーテリングの卓抜な手腕が光る佳篇。
他にも、ゴシップ好きの口が悪い一組の男女にかけられた呪いの話や、客人の小物をくすねていく小鬼(ゴブリン)の話など、ブラックウッドの多面的な魅力が詰まった一冊になっています。
怪奇小説は古めかしい訳文のほうが作品の雰囲気に合っていてしっくりくるように思いますが、南條竹則さんの訳文は適度に古風な趣を残していて、読んでいきやすかったです。
巨匠と称えられるこの作家の作風と力量がうかがい知れる、充実した作品集でした。