秘密諜報員ベートーヴェンというタイトルから、
始めは荒唐無稽な推測からのトンデモ本だと思って読み出したが、
意外に、理論的で、充分に納得のいく内容であり、
ベートーヴェンが生きた時代を深く理解できた気がする。
ベートーヴェンについてCDなどの解説を少しでも読めば、
パトロンとして、ヴァルトシュタイン、リヒノウスキー、ロプコヴィッツ、ルドルフ大公などは
それぞれに献呈された曲とともに、おなじみの名前だと思う。
そのパトロンたち(=自由主義者たち)がナポレオンの大陸封鎖やロシア遠征に伴って、
ベートーヴェンを諜報員として使い、秘密裏に連絡を取り合ったという。
交響曲第3番「英雄」は、ナポレオンに献呈されたが、
ナポレオンが皇帝の座についたことに腹を立てたベートーヴェンが、
その献呈を取りやめたという話は、どこにでも書いてあるが、
作者はこれも嘘であると断言し、理論的に説明している。
ベートーヴェンと言えば、苦虫を噛み潰したような肖像画とともに、
実らぬ恋ばかりして、音楽に一生を捧げた偏屈者、しかも名声を得てからも貧困に苦しんだ、
などというイメージがあったが、本書を読むと、イメージは一新される。
今までに解明されていない「エリーゼのために」のエリーゼの件、
その楽譜に隠された秘密など、作者の想像に過ぎない部分もあるものの、
下手な推理小説よりもずっと面白く一気に読み終えてしまった。
ただ、秘密諜報員という書き方は、単にスパイとして権力者に使われただけのようなイメージが強く出る。
ベートーヴェン自身も、自由主義者として活動しているので、
秘密諜報員というのは、タイトルとしてどうかと思った。