イギリス上流階級のお屋敷が舞台の本書のユニークさは、ヒロインが「つむじまがり」でかわいくない偏屈な女の子である点である。ついでに家政婦も庭番ものじいさんもなんだかイマイチな性格の人たちなのだ。まともなのは農村出身の姉弟とその母親くらいか。このあからさまな対比はルソーの『エミール』を彷彿とさせる。また、『ジェインエア』や『嵐ヶ丘』などブロンテ姉妹の作品のことも考えると、イギリスの19世紀は本気で病んでいたのだろうと思う。
この19世紀上流社会の桎梏の中で歪み育ったイギリスつむじまがりでかわいくない少女とわがままでひ弱な少年と、ありえないほど理想的な「自然な」農村少年の織りなす物語の最大の魅力は、実は自然描写の美しさではないかと思う。家政婦がいかにも魅力無さげに語るヒースの野原にすら、ヒロインはやがて魅力を見いだすのだが、その感情はそのまま読者に伝わってくるだろう。このほか彼らの自然とのふれあいを見ていると、私などは自分も同じように広々とした自然の中に生き生きした花園を作り上げたいと思い始めたものだ。ひ弱少年の身の上におこる変化は常識的にはあり得ないだろうが、それがすんなり読めてしまうのはひとえに自然の変化とその描写の力によるのではないだろうか。
この話にリアリズムがあるかと言われると、まあそれはないだろうな、甘い話だ、と思う。昨今の日本には歪んだ少年少女の物語がフィクションでもノンフィクションでも、またマスコミ報道などでも巷にあふれている。しかし子ども時代にはこのくらい夢のある話を読んでおきたいものだ。