入江敦彦氏の文章は流麗で、その豊潤な知の泉からほとばしるような解説の数々の明晰さに圧倒される思いで読み進めました。
書名から、京都の知られざる一面をたどるガイドブックのような使われ方もあるでしょうが、ロンドン在住の京都人という不思議な感覚と視点を持つ名エッセイストの日常の姿を辿ることで、表層的な取り上げ方しかしない所謂京都本へのアンチテーゼとしての性格もあるのかな、ととらえています。
本書の冒頭にもある「アナ場、カクレ家、ツウの店への手引き」などという親切な記載ではありません。地図も巻末に所在地リスト、そして24頁のカラー写真とそれなりに京都のいざないへの配慮がなされていますが、その奥義を知るためには、筆者と同様歩いて追体験をすることで初めて見えてくるものがあるでしょう、というスタンスを取っています。
それにしても、知られざる京都の奥深さに改めて教えられるものが多かったのも事実ですし、同感した箇所も多かったですね。
北野歌舞練場のビアガーデンは浴衣の舞妓さんの組み合わせは上七軒ならではの穴場でしょうし、桂離宮そばの中村軒の銘菓は、少し不便なお店を訪ねることで得られるものがあるわけです。白川疎水分流の桜並木は知られざる桜の名所ですし、千本釈迦堂近辺の散策は同様に観光客の少ない中で得られる京都らしさとしてオススメできます。
船岡山と桓武天皇のくだりは、西陣に育った筆者の感覚が見事にでていますし、真如堂の佇まいの美しさは京都の美でもありましょう。
日常の中で息づく京都の街の香りが立ち上るような密接度を感じながらゆったりとした街歩き気分で最後まで読み進めました。入江敦彦おそるべし、とあらためて思った次第です。