前作『灯台』でもうジェイムズ作品とはお別れかと思っていただけに、
大いなる期待と喜びを持って本作を読んだ。
今回の舞台は、著名な形成外科医が経営するドーセット州のクリニック。
そこにこれも有名な女性ジャーナリストが顔面の傷を除去するために
滞在するところから、物語は始まる。
他のレビュアーの方も書いているように、大聖堂を思わせる全盛期の傑作群からみると、
ややトーンダウンした感はあるが、ジェイムズ作品に共通する丹念に練られた
重厚なプロット、そして人間に対する皮肉でしかも温かい視線は健在である。
辛辣で緻密な心理描写、脇役にいたるまで丹念に描かれた人間群像、
暴力や倫理の欠如といった現代社会の諸相に対する鋭い視線には圧倒される。
日本でこういったミステリーを書けるのは、高村薫さんくらいか。
ダルグリッシュも人生のターニング・ポイントを迎え、悲しい過去を背負っていた彼も、
ついに新たな一歩を踏み出した。旺盛な創作力を保つジェイムズの新作が
また生み出されることを願ってやまない。