中国王朝の官僚登用試験である科挙制度を平明にかつ興味深いエピソードを多く交えて解説する名著。
受験生である「挙生」のエピソードを採りあげるのは、一般の読者の興味をそそるからかと思いきや、実はどのような制度にもフォーマルな面とインフォーマルな面があるのであって、制度的にどのようなものだったのかを記すだけでは、片手落ちになる。そのため、実情を読者に紹介しようという著者の配慮がいきとどいているのである。
本書に通底しているのは、著者宮崎先生のやや諧謔味を帯びた軽妙な文章である。つねに視線は現代から伸びていて、過去にはまりこむということがない。さりとて、過去を蔑むことも現代を自嘲することもない。シニカルさの中の優しさが読んでいて心地よい。
通読して思ったことは、「四書五経」を重視するあまり、実学を省みなかったために清国は滅んだが、しかし、それに学んだ近代日本は逆に実学重視のあまり、今だプリンシプルが欠如しているのではないか?という疑問である。大学では人文系学部より研究が実利に結びつく理工系学部が幅をきかせ、一方安部首相の愛読書は未だに吉田松陰というのはどういうものだろうか。
ところで、宮崎市定『科挙』にはもうひとつ戦中に書かれ、昭和21年に出版された版があり、高島俊男氏はこちらを推薦している。現在は、平凡社東洋文庫または『宮崎市定全集』に『科挙史』の名前で収録されている。本書を読了した方は、そちらに挑戦してはいかがだろうか。