先行レビュアーの方も言っておられるとおり、科学論に対する一般のイメージって村上陽一郎氏が精力的に紹介されてきたいわゆる「新科学哲学派」すなわちクーン、ファイヤアーベント、ハンソン、あるいは彼らの好敵手ポパー、ラカトシュといった名前で止まってるんですよね。本書はその後の科学論の激変の全体動向を概観するために待望されていた本であることは間違いありません。
70年代以降に登場してきた現代科学論のスターたち、ブルア、コリンズ、ラトゥール、クノールセティナ、ウィン、ジャサノフ、ネルキン、ハラウェイ、ギャリソン、ピカリングといった論者たちの業績のあらましを本書は紹介してくれています。「クーン以後」のいわゆる「相対主義科学論」と総称される動向がそんな総称で括れるほど甘いものじゃないことが本書だけからも十分読み取れると思います。日本の科学論者たちの総力を結集した現代科学論へのイントロダクションとして立派な出来ばえだと思います。広範なテーマを紹介してくれる本書からはいろいろ学ばせてもらえました。難点を挙げるとすれば、STS史上最大級の重要性をもつはずのコリンズの業績についての言及があまりに少なすぎるということでしょうか(これは英文の入門テキストと比べると明らかです)。
しかしやはり本場欧米の入門テキストの読みごたえと比べると明らかに劣るなあというのも事実でありまして、正直僕としてはSTSという分野の面白さを十分に味わうには、本書を読んだあとに他の本も読まないと厳しいかもという思い。邦訳のあるもののうち入手しやすいものでいえばラトゥールの『科学が作られているとき』やブルアの『ウィトゲンシュタイン:知識の社会理論』あたりの原典に直接あたるか、さもなくば英文の入門テキストにあたるべき。STSの多様な分析に広く触れるには英文の入門テキストにあたることは必須です。「相対主義科学論」に対するあらぬ誤解を解くのにうってつけの明らかにサイコーに面白い入門テキストが全て和訳されていない現状にはもどかしさを感じます!