ジャーナリストにもいろいろな分野があるが、表現力が一番求められるのは、意外にも科学ジャーナリストかもしれないと思った。高度に発達し専門化してしまった現代の科学は、一般市民にとって理解しがたいものになっている。それどころか、理解しようとする意欲さえ湧かないものになろうとしている。そんな現代科学を、いかに易しく、それでいて正確さを失わずに多くの人に伝えるか。これは難問である。ネタを仕入れるところからすでに理解不能の壁が立ちはだかっているのだ。しかし、科学ジャーナリストでなくとも、他人に何かを伝えようとするときには、誰でも多かれ少なかれこの難問にぶつかるのではないだろうか。その難問を乗り越える解答がこの本に載っていることを期待すると、少し肩すかしをくうかもしれない。だが、実体験に即した数々のアドバイスは多くの示唆に富む。たぶんその中から自分に有益な手だてを探し出せることだろう。そうやって自分で表現を探し出していくことは、表現活動の苦しみでもあるが、最上の楽しみでもある。