本書は、黒田如水、山本常朝など
九州になじみの深い人物を題材にした作品を発表し続ける
著者による長編歴史小説。
九州・秋月藩で起きたお家騒動『織部崩れ』を中心的な題材とし、
間小四郎、宮崎織部など事件の当事者たちや
原古処、采蘋、緒方春朔ら同時代を生きた文化人の諸相を描きます。
息づまる白刃の攻防、忍者同士の戦いなど
アクションシーンもふんだんに登場しますが
やはり、本書の大きな魅力は陰影に富んだ人物造形。
『奸臣』織部や、人心を玩ぶ姫野三弥も、
物語が進むにつれて別の一面を見せ、
一心に藩の将来を思い続ける小四郎もまた、
単なる『忠臣』にとどまらない行動をとるようになる―
身分や性別を問わず、清濁を併せ呑む登場人物たちが
葛藤しながらも、『自分』を生き抜く姿は心を強く打ちます。
また、個人的に印象深いのは
すべてが終わった後、小四郎らが交わす会話。
「政事はどのように行っても、すべての者によいということはないようです。
それゆえ後の世の人に喜ばれるものを、何か作っておきたくなる」
という言葉になるほどなぁと感心しつつ、
同時に、これほどの心境で公園やら建造物を立てた政治家が
現在どれほどいるのだろう―と、余計なことも考えてしまいました。
己の信念をひたむきに貫いた生きた男女の姿を
静謐ながらも力強い筆致で記した本作。
著者の作品が好きな方はもちろん、
歴史小説にあまりなじみのない方にも、広く読んでいただきたい作品です。