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私小説のすすめ (平凡社新書)
 
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私小説のすすめ (平凡社新書) [新書]

小谷野 敦
5つ星のうち 3.4  レビューをすべて見る (9件のカスタマーレビュー)
価格: ¥ 735 通常配送無料 詳細
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

才能がなくても書ける。それが私小説。その魅力を説き、「書きたい人」に勧める、挑発的文学論。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

小谷野 敦
1962年茨城県生まれ。本名読みあつし。87年東京大学文学部英文学科卒業。97年同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。大阪大学言語文化部助教授、国際日本文化研究センター客員助教授などを経て文筆業。『聖母のいない国』(河出文庫)でサントリー学藝賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

登録情報

  • 新書: 218ページ
  • 出版社: 平凡社 (2009/07)
  • ISBN-10: 4582854737
  • ISBN-13: 978-4582854732
  • 発売日: 2009/07
  • 商品の寸法: 17 x 10.6 x 1 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 3.4  レビューをすべて見る (9件のカスタマーレビュー)
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形式:新書
膨大な読書量と該博な知識を駆使して近代以降の私小説、及びそれをめぐる論争を手際よくまとめる著者の手腕には今回も驚嘆の一言である。その一方で私小説が今日にいたるまでさげすまされてきたという本書の前提には著者自身が感じているように疑問がわく。
それは西村賢太の芥川賞受賞によって情勢が変わったというようなことではなく、昔からこの国には私小説が多く、もてはやされ、だからこそそれに対する批判も多かったのではないかということでありそのことは本書の内容でも明らかだろう。
また著者は自らの創作哲学として自己暴露型(破滅型)小説を理想としており、そのため「モデル小説」や「リアリズム」といった言葉さえ私小説にからめとリ、結果としてそれらに対置する形として「虚構小説」という冗語を作り出してしまうのである。
「小説」に当たる英語はnovelだけでなくfictionもあり、著者が私小説に対する形で「虚構小説」と書く場合、それは「空想小説」もしくは単に「空想」あるいは「虚構」、ないしは「フィクション」、私小説は「実録」などと校正されてもよかったのではないか。
つまり著者は私小説はあくまで事実をありのままに書き連ねたものであるかのように考えているふしがある。
しかし著者の作品である「東海道五十一駅」でも語り手は吉川さんと付き合っていたなど虚構を含んでいると思われ、近未来小説「あなたの肺気腫を悪化させます」でも主人公が大学内でたばこを吸い首になるなど著者自身の体験が多く反映されており、私小説=現実、それ以外は虚構と言う図式は著者の作品においてすら当てはまらない。
著者は私小説を論じる際、自然主義小説を念頭においているようだが小説というのはそもそも著者が行っているように鋳型にはめられることを本質的に拒んでいるものなのではないか。伝記的事実からこの小説が私小説であることが明らかになったなどといくつかの小説を紹介しているのはそれによって何を主張したいのか分からないが、方法論的には古式ゆかしきやりかたであろう。
著者が毛嫌いしている解体批評的な批評には小説のジャンル横断的性格を論じるものもあったと思われ、その手法によってこそ私小説の魅力は明らかになるのではないか。大江の私小説の論じ方が不徹底なのも現実をそのままの形で書くのが私小説であるという考えに縛られているからだろう。
著者は梶井基次郎は随筆家ではないかというのだが、それは作品の虚構性からこの作家の作品を私小説からはずして貶めているようなところがあり、それとは対照的に全く時代の違う「勝目梓」を「そんな中」(p.36)と突然紹介するのは私小説が事実の集積体であるという固定観念を基準にした恣意的な比較であろう。
著者が西洋における私小説としてあげているルソーの『告白』にしても自分も取り巻く人間関係に関する愚痴なども多く、長編とはいえ見方によっては単なるエッセーに過ぎない。
また岩波のワイド文庫の解説に反論する形で漱石の『道草』が私小説であるということをいかにも自分の創見のように言っているが、これは30年以上前に大岡昇平が「死んだあとに妻にかかれることに対する予防として書いた」自伝的小説であるというそれ以降の支配的定説を抜きには語るべきではないだろう。
極言すれば著者の言う私小説とは断片的な「自伝」のことのようで北杜夫や辻井喬の自分の一族を自ら描いた長編などのように、私小説なのかモデル小説なのか曖昧な点を残す作品もあるとはいえ、「モデル小説」というのは一般的には私小説とは違うもののはずで、(モデル小説は私小説と)「問題を共有しているもの」(p.53)という言い方も実際には著者の中で「私小説」も「モデル小説」も「リアリズム」として単純に一くくりにされている証左ではないか。
なお「はじめに」で「芸」の旧字体を使うことを主張しているが「ロクシィの魔」でAV女優の「芸名」にまでその字を使うのには違和感がある。
「悲望」の出版の経緯についても書かれているが、出版社の法務部が訴訟を恐れたことに「そんなことをすればかえって目立つ」とか「本人は外国にいるのだから」といった件に関しては代理人にとりあえず出版差し止めの仮処分申請をさせればいいだけの話ではないかと思うが、こうした後日談があまりにも現実的であることからも著者の私小説に対する考え方があまりにも現実に縛られすぎているのではないかと思わざるをえない。
このレビューは参考になりましたか?
14 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By ソコツ トップ100レビュアー VINE™ メンバー
形式:新書
私小説の存在意義を論争的に主張する本。推理小説・SF・ファンタジー等の虚構性の高いものではなく、リアリズム的な物語を執筆する上では誰もがまずは自己の体験をモデルとして「使用」しないと書けないだろうと、主に近現代の文学史のなかから従来は「私小説」とは扱われてこなかった作品を「私小説」として言及していく部分がまず面白かった。だがそれ以上に刺激的だったのが、私小説批判論者を徹底的にやりこめていく議論で、過去からは中村光夫、現在からは大塚英志が「敵」として取り上げられている。特に後者については「やっと言ってくれたか」という感触があり、私的にもこの人の「近代文学論」は何かおかしいという気がしていたので、溜飲が下がる思いがした。
また私小説の作家としての立場からもこのジャンルのメリットが述べられており、こちらもなるほどと思わせる指摘が少なくなかった。「小説を書きたいのだが何を書いていいかわからない」という人には、別に「売れない」がこの形式は断然おすすめできる、と言い、また「私」の屈託やこれまでの人生の中で味わってきた苦悩、いやそれ以上に「みじめさ」「なさけなさ」を留保なく記述するこの小説作法は、ある種の「治療」や自己の「成長」にもつながってくるはずだ、と読者の背中を押す。そういうことならいずれ自分も書いてみようかな、と思わせるに十分な魅力のある私小説肯定論であった。
このレビューは参考になりましたか?
2 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By モワノンプリュ VINE™ メンバー
形式:新書
 著者は最近、読みやすそうな新書を次々に出していて、これもその1冊。帯(初版第1刷)にも「才能がなくても書ける。それが私小説。その魅力を説き、『書きたい人』に勧める」とあって、名誉毀損なんて気にするな、下手な小細工はせずにありのままを書け、自分の情けなさを曝け出してナンボ、などと背中を押している。巷で「小説の読者より多い」とも噂される「書きたい人」市場を狙った1冊なんだろうと思う。私も気楽な読書を楽しませてもらったが、やはり中村光夫を論じた第3章が面白かった。
 中村については『風俗小説論』は面白かった記憶があるが、他は二葉亭四迷論とか近代小説論とかをチラホラと読んだくらいで、私に特別な愛着はない。本書でも取り上げている蓮實重彦と中村の対談(p99参照)で、蓮實が妙に中村を持ち上げていて、私は自分に教養がないから中村のエラさが分かんないのかな、などとボンヤリ考えていたくらいのものだ。しかし田山花袋と二葉亭四迷、この2人に対する中村の評価の落差を、小谷野は中村の家族史から読み解いており、そういう観点で中村を論じたものを読んだことがなかったので非常に新鮮な印象を受けた。ただ、ちょっと切り方が鮮やか過ぎて、ホントかなという疑念も少し……。
 それにしても私が気になるのは小谷野の蓮實重彦に対する評価で、このような本を書く著者が蓮實を快く思っていないのは間違いないと思うのだが、正面から批判した文章はないのではないか? それどころか本書では、蓮實は中村の議論の矛盾に気付いていた人間として登場する(p107)。
 私自身の考えを付け加えさせてもらえば、私小説であれ何であれ楽しめればいいワケで、しかしその楽しみの比重が「暴露性」にかかっているとは思わない。テクスト論や構造論が面白くないのも確かだが、この本の議論はやはり後退ではないか……ただし後退であっても、読み物としては楽しく読めた。
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