エバーディーさんの回顧録そのものは、興味深い内容です。彼女の主張にケチをつけるつもりもありません。問題は訳文です。英語と対照させると、そのお粗末さと無責任さがはっきりします。
まず第一に、原著の段落の順番が大幅に入れ替えられています(特に第一章はひどい)。訳者は読者が読みやすいようにと思ったのかも知れませんが、これでは「翻訳」とは言えないでしょう。例えば、訳書冒頭に「つぎに殺さねばならんのは、シリン・エバディだ」という文句が出てきますが、こんな文章は原著の冒頭にはありません。訳者はほとんど「雑誌の編集者」気取りのようです。
第二に、あまりにお粗末な誤訳です。「これらの殺人の異常性は、用事で外出したところを絞殺され自宅でからだを切り刻まれた犠牲者がいることからも想像できると思う」(pp.7-8.)。こんな文章は原著にはありません。原著には「ある者は用事で外出したところを絞殺され、ある者はめった切りにされて殺された」と書いているだけです。
「その頃すでに政敵への残忍行為の伝説的首謀者と目されていたアーヤトッラー・ホメイニーは体制側の秘密警察SAVAKを糾弾した」(p.52.)とあたかもホメイニーが「政敵」に対して残忍行為をしたかのように訳されてますが、原著には「政府を批判する者たちへの残忍さですでに伝説的な存在となっていた、シャー体制の秘密警察SAVAKを、アーヤトッラー・ホメイニーは激しく非難した」と書いています。
「シャーの支配は行き過ぎであったり手ぬるかったりして‥‥」(p.38.)。果たして「手ぬるい」とはどういうことかと思って原著を見てみると、何故かrepression(抑圧)が「手ぬるい」と訳されている始末。
こんな初歩的な誤訳が盛りだくさんですので、「話のタネ」として読む分にはいいですが、信用にたるような訳文ではないということを心にとめておいて下さい。