アメリカ・ニューヨーク在住のジャーナリスト兼女流作家マコーミックが悲惨な実話を基に書き上げたドイツのグスタフ・ハイネマン平和賞受賞の感動の一冊です。本書に描かれるネパールの少女の身に起きた悲惨な運命が少しも嘘偽りのない現実の出来事だと知らされて大きな衝撃を受けました。富める国貧しい国の何れにも悪は存在するのは事実ですが、金儲けの為に抵抗する力のない少女たちを情け容赦なく暴力で無理矢理に従わせる悪い奴らには激しい憤りを感じました。
ネパールの山村に生まれた13歳の少女ラクシュミーは貧しい生活を送りながらも優しいアマ(母さん)と赤ん坊の弟と賭け事ばかりしている浪費家のろくでなしの義父と子ヤギのターリーと平和に暮らしていた。けれど、ある日義父が娘を街に行かせて女中にして金を稼がせると一方的に話を決める。やがて少女は「いつか帰って来る」と自分に誓いながら故郷を後にするのだが、おばさんに連れられてやって来たインドの街で彼女を待っていたのは想像も出来ない恐ろしい真実だった。
親に売られた13歳の少女ラクシュミーが売春宿「しあわせの家」で接する人々とのエピソードには人間性を喪失した暗い絶望感と深い悲しみが感じられます。ムチと薬を使ってどんなにしっかりした少女でも屈服させる鬼婆の様な女将ムムターズはどうしようもない悪人ですが、他の人達にはまだ人間らしさがあり逃げられずに仕方なく従っているのです。女将のスパイだがこっそり酒を飲んで憂さを晴らすシルパ、何かと親切にしてくれる心優しい女仲間シャハンナ、逃亡を図りごろつきに捕まって顎を砕かれた半分しかめ面の女の子アニタ、二人の子持ちの母でしょっちゅうせきをしているプシュパ、プシュパの8歳の息子で学校に通いながらラクシュミーに読み書きや言葉を教えてくれた「ベッカムくん」ことハリシュ少年、家に帰る為に形振り構わず人一倍努力して来たのに念願が叶ったと思ったら両親から家の恥だからと拒否され更に大きな不幸を背負う事になる本当は心優しい少女モニカの運命は本当に可哀そうで心が張り裂ける思いがします。他にもラクシュミーに初恋に似た感情を抱かせてくれた優しい客や、お茶やコーラを無料で飲ませてくれた名前も知らない物売りの男の子の挿話が深く印象に残っています。本書で一番感動を覚えるのは、中には悲惨な運命が耐えられずに自殺を選ぶ女の子もいる中で、決して諦めずに何時か優しいアマや大好きなターリーの待つ家へ帰る日が来ると信じて心を強く持ち必死でがんばり抜くラクシュミーの不屈の姿勢です。最後に皆が人間不信に陥りこの世に正義などないと完全に諦めている悲惨な状況が本書を広く世界中の人々が読む事で変わって、シャハンナやアニタやプシュパやモニカら非道で理不尽な犯罪の犠牲になっている世界中の全ての少女たちが救われて幸せになって欲しいと祈ります。