数十年にわたり、アジアや中東の各地を回り、「名作」の発掘に尽力してきた映画評論家の評論集。未発表の論考はいくつかあるものの、書き下ろしは序文とあとがきのみ。やや物足りないが、著者の足跡が否定されるものではない。
「旅」の結論はこうだ。「広くアジア各地に映画を見る旅を続けたが、その結論として言えることは、いまや世界には、見る価値のある映画をほとんど作れない国などいくらもない」。戦争や内戦、貧困など恵まれない地域であっても、そこには普通の人々の日常の営みがある。経済的、文化的な壁があったとしても、映画を見ることで、具体的な姿が見えてくる。
ただ、著者の主張は、4年前に発刊された新書「映画から見えてくるアジア」とほぼ同じ。著者の仕事ぶりを高く評価するからこそ、改めて全編を書き下ろすぐらいの意気込みと、深い考察をもって挑んでほしかった。