1977年に出た単行本の文庫化。
全集版などいくつかの版があり、最新のものとしては2007年に筑摩文庫版が出ている。
もともとは1974-76年に『藝術新潮』に連載されたエッセイ。吉田秀和が、自分の好きな音楽について自由に語ったもので、いつもながら文章の流麗さと褒め方の巧みさに圧倒された。
取り上げられているのは、ベートーヴェン『弦楽四重奏曲嬰ハ短調作品131』、ストラヴィンスキー『春の祭典』、リヒャルト・シュトラウス『ばらの騎士』、モーツァルト『ピアノ協奏曲変ホ長調K.271』など26曲。ただし、複数の曲に言及している回もあるので、実質的にはもっと多い。
それぞれの曲について、なぜ好きなのか、どこが優れているのか、音楽史上の位置づけなどが行われていく。楽譜を検討したり、エピソードを開陳したり、自分の思い出を語ったり。
「自分の好きな曲を語る」というのは、けっこう良くある企画だと思うが、本書はレベルが違う。分析の深さが並はずれているし、そこから派生して、曲の評価の仕方が信じられないほど上手い。読んでいるだけで、「そんなにすごい名曲なのか!」と感動してしまうほど。
ただ、あまりに自由に書いていたために編集から注文が付いたのか、次第に筆の滑らかさが失われていくのが残念。