「神々の宿る島」「世界の朝」などと呼ばれる神秘の島バリの魅力を、美しい文章で存分に書き尽くしたエッセイ集。行間からバリの匂いや色彩が浮かび上がってきて、数年前に訪れた私を魅了したバリが、蘇るような気がした。冒頭の数ページには著者が撮影したバリのカラー写真が掲載されていて、読者をまっすぐにバリの世界へと惹きこむ。白黒ではあるが本文中にも多くの写真が含まれている。
アメリカに移住した後、8年間に渡ってバリに長期滞在してきた著者は、日本とアメリカという対極的な文化体験を踏まえた上で、バリ文化を見通している。しかし本書の魅力となっているのは、とかくありがちな「異文化論」ではなく、著者の生き方、在り方と共鳴するバリの人々への深い愛情である。第二章「バリの人々」では、著者を取りまくバリの友人達のことが鮮やかに描写されていて、エッセイ集というよりは上質の短編小説集を読んでいるような、文学的味わいがある。
最終部「イノセンスの終焉」では、2002年にバリを襲ったテロ事件に関する考察が述べられているが、バリを訪れる観光客の立場で「テロで失われたもの」を見つめる視点は秀逸である。バリが新たなるテロ事件の標的とされた最近だからこそ、著書の声に耳を傾けたい。読み終わった後、バリに対する感慨が、余韻としていつまでも残る一冊である。