渡辺保の口調、文章のリズムというのは独特なものがあって、これに慣れ親しんでしまうとすこぶるリズミカルに読める。この本もそんな1冊である。
劇評という分野の山脈にあって、この人は最後の光芒を放つ人ではないかと思う。まず見巧者であること、そして近代的な解釈ができること。その点がこの本でも如何なく発揮されている。
歌舞伎座(といっても戦後再興)の序章から始まって今に至るまで。ちょうど筆者の観劇人生と重なる。そのエポックを1編3、4ページにまとめて描き切っている。
菊五郎劇団、吉右衛門劇団の相克や、歌右衛門という女形の存在の大きさ(それをいたずらに神話化するのではなく)。この戦後の歌舞伎の歴史をその前史から小気味よくつまんでいるので、歌舞伎入門書としても面白いかも知れない。
中で吉右衛門の「鬼界島」、白波の「蔵前の場」などなど、摘出する舞台が非常に楽しい。それ自体、戦後歌舞伎の名場面集ともなっているのが巧みだ。
お勧めしたい1冊である。