とても丁寧に練りこんだ作品であることは認めます。
けれど、ここまで長く主人公の半生を追う物語でありながら、ほとんど感情移入できませんでした。
理由は3つ
1、事実に物語を絡めるのが強引すぎ。
田中角栄の話が出たと思ったら、阪神震災、香港返還、今度は宇多田ヒカルで、中越地震と全てに登場人物を絡めるのは無理があります。
他に挿入されるエピソードも唐突すぎてまさしく取ってつけただけに読めてしまいます。、
政治と庶民の対比とか、災害と日常生活という風に的を絞ったほうが読みやすかった気がします。
2、登場人物がみんなエリートで現実感がない
常務に好かれ重要ポストに置かれる主人公、新聞記者の弟、40歳で企画部長にまで登り詰めた夫(元妻も実家も金持の模様)、大学講師の父、英会話教室を開く母。
恋人は30歳で独立する売れっ子デザイナー、東大卒で東京電力に入社する少年、人気ラーメン店の店主は30歳で独立。
周辺の登場人物もみなそれぞれちゃんと学校に入ってちゃんとした職についてます。
明治時代の小説じゃないんだから、エリートと金持ちだけで「女の人生」を語ろうとしても、上滑りになるだけです。
3、次から次に病気がオンパレード。
急性膵炎、クモ膜下出血、心臓病、肺ガン、胃潰瘍、ストレス性白毛と続けば「この人たちは体調を崩さなければ、人生を見詰め直すことがないのか?」といぶかしくなります。
他にも夢をキーワードにするのか、手紙をキーワードにするのかもどっち付かずで、もどかしく感じる。
九州編ではとても丁寧に「食べること」を描いているのに、それ以外の章では食の描写がほとんどほったらかし、など全体を通じて「トーンが統一しない小説だなあ」というのが正直な感想です。
けなしてばかりいますが、悪い小説ではありません。
もっともリアルに女性の運命を感じさせたのが、彼氏との合成写真を見ていたら「こんな子ども欲しくもないし、かわいくもない」という感覚に襲われるくだり。
「選べない人生」という本作の一つの主題がこのエピソードに凝縮されているようにすら感じました。