本書は、その前書きによると、「現代の福祉と人間に関する基本的な問題をわかりやすく説き明かすこと、そして諸分野を接合して包括的な視座を獲得できるようにすること」を目指した入門書とのこと。とはいえ、哲学者、心理学者、社会学者等計5名によるオムニバス形式が採用されており、統一性・体系性の希薄さは覆い隠しようがない。また論点がよく整理されている章もあればそうでない章もあるため、上記の教科書的な目的を十全に果たしているとも言い難い。むしろ、紙幅の関係もあるのだろうが、議論が十分に尽くされていないためにかえって分かりにくくなっている印象も受ける。
それを最大限好意的に解釈すれば、全体の流れは以下のように要約できるだろう。まず冒頭二章で「福祉」に対する本書の基本的なスタンスが示された後、人々のこころは時代や環境によって「病む」のか(第3章)、人々の福祉にとって心理学には何ができて何ができないのか(第4章)、現代の子どもに求められているのは「自己責任」か(第5章)、家族機能の縮小・社会化の現状にあって、「自由でありながらも連帯できる家族像」をいかにして築いていけるか(第6章)、障害のある人にとっての「自立」とは何を指すのか(第7章)、障害のある人が施設を出て地域に生きるとはどういうことか(第8章)、社会保障制度を構想するうえで基礎となるべき人間像とは何か(第9章)、高齢社会においては何が不安となるか、何を希望とすべきか(第10章)、人間のこころの問題は技術的に克服されるべき問題か、そうでなければそれはどんな問題か(第11章)といった個別的問題が論じられ、最後に、編著者の主張する「生存保障のプラスター(膏薬)・モデル」が、ベーシック・インカムを支える社会保障モデル構想として提示される(第12章)。
もしこの本を貫く視点があるとすれば、それは以下の二点に求められるだろう。第一に、福祉とはあまねく人間の善きあり方、善き生き方に関わる問題であり、単に老人や障害者などの弱者救済の問題ではないということ。そして、第二に、人間の福祉は単なる個人の気構えや努力の問題ではなく、社会のあり方の問題であるということ。つまり、人間の福祉は、健康や障害等の有無にかかわりなく、社会制度・社会環境によって大きく揺さぶられるものであり、人間とは本質的に他人や社会環境に依存した存在であるということ。もちろんこれら二点の特徴は取り立てて新しい主張とは言えないだろうが、それを様々な問題圏の中で様々な学問的視点から確認するという意味では、本書は冒頭の目的をある程度までは果たしていると言えるのかもしれない。それぞれの章に無闇矢鱈な難解さはないので読み通すことは容易であるが、全体として見れば、入門書・教科書とするにはハードルが高い。読者の側に深読み能力や想像力を要する本と言えよう。