例えば著者は村上龍や沢木耕太郎の作品を、評価していない。
中上健次についても、多くの批評家のように手放しの絶賛はしていない。
それでも著者は、彼らの文章がなぜ読者を惹きつけるのか、冷静に分析を試みている。
『
作家の値うち』以降、著者の文芸評論は辛口で知られるが、
本書を読めば、著者が文章の読み手として確かな鑑定眼を持っていること、
そして、作品が今ひとつであっても、文章は魅力があるのだと是々非々で評価ができる、フェアな評論家であることが理解できる。
白眉は東海林さだおの文章を論じたくだり。超庶民派のB級グルメエッセイの文章の魅力に、的確な解説を加えていて、
東海林の文章は一見する肩の力を抜いて簡単に書けそうなものだが、素人には真似のできない多くの技巧によって成り立っていることを解きほぐす。
文章の上達はもちろん簡単ではない。膨大な文章修行を積んだ作家たちの文章を読んでも、タイトルのように実践的に活用するのは難しい。
しかし、漱石から舞城王太郎まで、近代日本の作家たちの文章を読めば、日本語は決して捨てたものではない、と気づくはずだ。
『
ことばの見本帖 (ことばのために)』 で高橋源一郎が蒐集した日本文学最前線の文章とともに読んでほしい。