ジャーナリストでありながら、「下請け労働者の一人となることで、彼らと同じ境遇に身を置き、彼らと同じように働き、彼らと同じように放射線を浴びることで原発というものをみつめてみよう」と思い立った堀江邦夫氏が、実際に、福島原発をはじめ、日本各地にある原発で一労働者として労働した経験を綴った原発労働記。彼の文章に、妖怪漫画でお馴染みの、水木しげる氏の挿絵が入る。
最近では、原発関連本にもやや食傷気味だが、水木しげる氏のファンである私は、彼の挿絵を目当てに購入を決めた。全90ページほどの本書には、20点ほどの水木しげる氏の挿絵が入り、「原発内部の放射能の恐怖」が水木タッチで見事に描かれている。
本書の内容について..著者が経験した原発労働が詳細に綴られていて、彼の文章から、原発労働の実態がリアルに伝わってくる。福島原発事故以前は、世間に注目されることがほとんどなかった原発労働の実態は、私たちの想像を遥かに超えるほど過酷なものだった。「もしこの人工空気がストップしたなら、間違いなくこのヘドロのなかで窒息死だーそんな不安が幾度となくの脳裏をよぎる。顔の汗を拭いたい。が、マスクを外すわけにはいかない。タンク内に充満している放射性物質を吸い込んでしまうからだ。ノドに激しい渇き。水を飲みたい。が、タンク内はもちろん、管理区域内には水飲み場も無い。トイレさえ無い」(本文より引用)。このような環境で被曝を覚悟で作業に従事する労働者たち、そして、隠蔽される数々の労災etc、例え福島原発事故クラスの事故が起きなくても、誰かが自身の健康を犠牲にして労働しなければ成立しない、「原発というシステム」の大きな問題点を、著者は、自身の実体験に基づき鋭く指摘する。
本書は、全90ページほどで、30分もあれば読了してしまえるが、私たちに、「原発というシステム」について、真剣に考えるきっかけを与える秀逸な作品であると感じた。原発に賛成か反対かに拘らず、私は、本書の内容は、すべての日本人が知るきだと考える。私たちの使用する電気の一部が、このような労働抜きには供給され得ない事実。私たちは、私たちの社会は、これを是とするのか、否とするのか?この問題をすべての日本人が考え、議論しないまま、「原発というシステム」を継続していくことは、もはや社会的不誠実なのではないか?本書を読了後、私はそう思った..
本書の内容は星5つの評価に値するが、星5つでないのは、本書の全90ページという分量に対して、1,050円(税込)という価格がやや高いのではないかと感じたためである。