本書、禅語を春夏秋冬の季節ごとに紹介、解説していく、「禅語読本」のようなもの。新年、一月から始まって、二月、三月、...十二月、と著者の判断で相応しいものが選んである。こういった禅語の解説書、解説自体が平明であっても、構成が辞書的なものが多く、月ごとに配列してあるのはありがたい。通読することで、禅の四季が味わえるという面白さもさることながら、どのような掛け物を選んだらよいのか困る場合でも、本書は良い手引きとなるであろう。墨跡の写真も交え、季節とかかわらず愉しめる「無季」という章も設け、しかも最後には、登場する語の索引・出典一覧がかなり詳細に載っているので、掛け物の好きな人には心憎い編集となっている。特に出典に関しては、本文の解説も含めて、著者の該博な知識が十分に生かされており、本書全体の魅力の一つとなっている。
本書、本文に関しても、かなりユニーク。禅語の解釈書は、生真面目な解説のものが殆どで、読み物としては今一つのものが多いのであるが、本書はさすが、縦横無尽。ある時は背景をふまえた正攻法の説明、ある時は人生について、禅についての真摯な呼び掛け、またあるときは上質のエッセイ、そして全体を特徴づける、著者独特の飄々としたユーモアが素晴らしい!
禅の本にあって、著者のような質のユーモアは、空前、そしておそらくは絶後であろう。それが、プロの作家としての圧倒的な文章力のなせる技であることはもちろんであるが、忘れてはならないことは、そうした文章の力も、遷り変わり行く四季に対しての鋭敏さと、美しい自然に対する慈しみの心、そして人間に対しての繊細で、敏感な感性があってのものだということである。くだけた語り口においても、これほど品位を感じさせる人は、ただ者ではない。本の性格上、ちょっと難しい部分もあるものの、この手の本を読んだことのない人にも、お薦め!