2巻目に入った。長編を読む楽しみのひとつが、読んでいる期間中。本を閉じているときでさえ、その本で描かれた世界を思い描き、描かれた世界にともにいることだ。現実は本とともにあり、実際生きているここにはない。そういう不思議な陶酔状態を延々と続けることができる。読んでいる間だけ。
2巻目なのに、読み終わるのが惜しくなっている。意図的に読書速度を落として、この世界とともに過ごす時間が、少しでも長くしたいと考えつつある。
この小説の感想を述べてゆくことは、極めて困難だ。少なくとも現代小説には類例をみない。強いて例えるなら、昭和16年から昭和20年に起きた、軍隊生活内部での、できごとを、古文の表現手法で描き出した世界なのだろうか。
軍隊内部で行われる日常を通じて、主人公の内面は、古典から政治、文学、漢文、詩作にいたる自分自身の知的蓄積の内部を目まぐるしく文献を検索し、相手の発言や意図を予測する。
その思考の面白さと、博識さ、ついでに学べてしまう、あらゆる分野の文献の楽しみ方、そういうものをいっしょくたにして、展開してゆく。
誰も真似ができない。類似のものを書いたとしても、この筆者以外の筆力と知力では、それは必ず破綻するだろう。
そうして、この2巻目。1巻目とは趣を異にして、入営前の愛人との濃密な関係についての秘密が解き明かされてくる。主人公の頭脳の中を泳いでいるような心持ちだ。
そして、この巻の重要な登場人物、主人公の東堂二等兵でさえ、つかみかねている大前田軍曹。彼の口から出てくる、でまかせのような奇怪なとめどもない話の先は、どこに向かっているのだろうか。好奇心を掻き立てられつつ、3巻目を購入した。