著者は私の恩師の一人である。昨年暮には本書を買った旨、5月には読んでいる最中である旨報告した。いずれの際にも「フィードバックを歓迎する」と言われたことが、社交辞令でないことは明らかであった。だから適当に読み飛ばす訳にはいかず、私は気付いた点・疑問点を書き込みながら読み進めた。
先生はとても誠実な方であって、自己を厳しく律しておられ、学者の中の学者である。当然、様々な栄誉を受けておられるが、ご本人は「謙虚」であることをとても重んじておられるので、今も一学徒としての姿勢を崩しておられない。本書は、そんな先生が長年の研鑽の成果を注ぎ込んだ神経診断学の教科書である。誠実を尽くした内容であり、正に先生ならではである。しかも、かなり高度なことが書いてあるのに、実にreadableである。
最近は大半の医学書が多数の著者の共著になった。理屈の上ではその方が、作成に時間もかからず、しかも各執筆者が得意分野を書くので質が保証されるはずである。しかし実際には、そうはならない。皆忙しいから、締め切りの無視は当然のように行われるし、原著論文以外は本人の評価につながりにくいため、片手間の仕事が横行する。そのため、項目によって完成度がまちまちになりやすい。その点、単著の場合、その著者が信頼のおける人である限り、一定の質が保証される。本書はその点で何ら心配が要らないばかりでなく、著者ご自身の考えが本文中に埋め込まれているために、非常にexcitingな読み物になっている。まるで回診に随いているような臨場感。あまりなさそうな不得意分野を含めて全編を単独で書いたために生じる小さな瑕瑾は止むを得ない(先生、いずれ必ずフィードバックします)。そんなことよりも、読んで得られるものは遥かに多い。初心者向きとされる本書であるが、むしろ読むべきは、ある程度経験を積んで、わかったつもりになっている世代ではないかと思う。