本書は筆者じしんが経験した神秘体験を中心に描いた、マンガ自叙伝です。筆者は「コ
ミック昭和史」をはじめとして、何冊も自分についてお描きになっています。本書の特徴
は、自分がこれまで遭遇したふしぎな体験を、妖怪や霊の現れとして積極的に解釈しなお
している点です。短所は、「あの日」「あるとき」「それから」など、ぼやけた記述がと
てもおおいことです。年表をつけるなどの工夫が必要だったのではないでしょうか。
水木作品の魅力とはなんなのだろう。本書をよみながら考えていました。水木先生の作品
がすばらしかったのは、妖怪や霊のいるふしぎな世界を、筆者の空想によって垣間見せて
くれたことでした。つまり読者とおなじ現実世界の住人である筆者が、空想の世界を描き
あげてみせる。それによって読者は筆者の内面をとおして、妖怪や霊のいる世界をしばし
体験することができたのです。
しかし近年の筆者にとって仮構と現実の線引きなど、どうでもよくなってしまわれたよう
です。というのも筆者は「妖怪はいる」「霊はいる」という結論に、たどりついてしまっ
たのですから。このように仮構と現実を一緒くたにし、すべて現実の出来事にしてしまう
ことは、創作にとって致命的なのではないでしょうか。
かわって、空想世界の書き手であった筆者は晩年をむかえ、こんどは自分じしんが「水木
サン」というファンタジーな存在になってしまわれました。作品そのものではなく、今で
はご本人じしんがふしぎな存在なのです(その「ふしぎぶり」は次女・悦子さんのご本
『お父ちゃんとわたし』などの第三者による記述から確認することができます)。
「ふしぎな世界」の描き手は、いまや「ふしぎな世界」の住人になってしまわれました。
本書をよみおえて、水木「作品」を愛してきた者として「神秘家」という水木先生の現在
の状況に複雑な思いをいだきました。
〈目次〉
「神秘家水木しげる伝」(第1〜4部)
「神秘家のお父ちゃん」(水木悦子)
「あとがき」