プロ野球好きの喜びとは何だろう。ひいきチームの勝利?必ずしもそれだけではない。自分には到底及ばない能力を持った男たちの超人的な仕事を目撃し、夢を見ること。それこそがファンとして最高の喜びではなかろうか。先日の「神様・仏様」こと鉄腕・稲尾さんの訃報に、ふとそんなことを考えた。
シーズン42勝、20連勝、土壇場からの日本シリーズ4連勝と自ら放ったサヨナラホームランなどなど、おそらく、稲尾さんほど印象に残る仕事をし、多くのファンを幸せにしたプロ野球選手はいない。
当時は日本中がよりよい生活を求めて向上しようと燃えていた時代。今は練習環境や道具の向上で、打者のレベルが当時とは比べモノにならないほどアップし、相手が下位打線でも投手は手を抜けない。時代が違う。そんなことはわかっているが、わかっていても稲尾さんが残した数字は、ため息が出るほどまぶしい。何より勝率の高さが、エースとして信頼を集めた所以だ。
しかし、これらの数字よりも印象に残ったのは、稲尾さんの心の美しさだ。三原監督の保身によるものでもあった酷使にも、彼は「いつも喜んで投げた」という。プロ野球人生を太く短いモノにした酷使を恨む様子など全くない潔さ。そして、ある日見た夢を実行に移そうと、風呂で右手の指を伸ばし続けた純真さ。肩を痛めてからの経験を「尊い」と言い切る器の大きさ・・・。
今、彼のような心根を持った選手は、どれだけグラウンド上にいるのだろうか。ほとんどいないとすれば、プロ野球の前途には悲観的にならざるを得ない。