本書『神宮の奇跡』は、学習院大学が東都大学野球1部リーグで優勝を果たした執念の顛末を渾身の取材で伝えている。試練あり、喝采ありのドラマは、優勝シーンの描写だけにとどまらない。
生死を賭け戦禍をくぐり抜けて帰還した投手・井元俊秀の半生を、キャプテン・田辺隆二の母への深い思慕を、皇太子(今生天皇)と野球とのかかわりと成婚の経緯を、監督・島津雅男が今日のPL学園の礎を築いた心の歴史を描き、美しい「日本人」の精神を人間くさく活写している。
正直に言えば、私は何かをあきらめ、今の日本に生きることを嘆いていた。しかし筆者は、日本人を心から愛し、日本に誇りをもち、『神宮の奇跡』に登場する人物たちと同じような人生を歩んだであろう、高度経済成長を支えた日本人に敬意をあらわすことで、混迷の中にある今の若き日本人に「自信を持て」と諭している。
筆者の日本人を見る目がはかりしれず優しいことに、胸が震える一冊である。