『神風を呼ぶには犠牲がいる』(上巻、265ページ)
この世には、というより戦後辺りにはしょっちゅう戦争小説とやらが書かれていたわけで。
しかしながら『戦争小説』とはその名の示すとおり、戦争を『経験』したものが書いている媒体なわけであって。
故に見解は、結論は、賛成に傾くわけがなく、悲惨さや陰惨さ、反省と愚考への述懐だったりにとどまってしまうわけである(あるいはティム・オブライエン的な、僕がPTSDになったわけ、だったり)
その点を戦争参加者(死亡者)の呪詛に的をしぼり、直裁に描いたのが同作者による『浪漫的な行軍の記録』だったわけだが、今作も同じ傾向であるものの、どうもエンターテイメイントの体裁をとりながら、細部と結末がいまひとつ分かりにくいところがある。それにより星一つ足りない。
しかしながら補って余りある魅力、ことに下巻に移ってからの物語の集約とそれを上回る混沌と猥雑、なんちゃってメタ・フィクション、飛躍し鋭く切り込んでくる日本人論がもう堪らない。
戯曲のようなコマ割りの元、死者と海兵隊員、迷い込んだ現代の若者によるセリフの応酬は見事。『今の』目線があるからこそ、死んだものの滑稽さと空回りする必死さ(もう死んでるんだけど)、惨めさと恨みの深さがまさに海底よりドドドと伝わってくる。
キーワードは、鼠、日本人、ロンギヌス物質。