まず一、二章で本書で扱う宗教的概念とは何かと、「なぜ宗教は今あるような形であるのか?」という基本的な疑問を提示する。そして従来の宗教の起源の説明を再検討する。三章では認知心理学、進化心理学のおさらい。四から八章まで神、道徳、死、儀礼、暴力などをなぜ宗教がしばしば扱うかを検討している。最終章ではなぜ人は信じるかという一般的な話題と全体のまとめ。
ボイヤーは従来の記述・解釈を中心とした宗教学では手におえなかった謎が、実験心理学、認知科学や進化生物学の発展によって、「どのように概念は伝えられ心の中に定着するのか」という視点から論じることが可能になったと主張する。たしかに宗教のような人間行動はソフトだけから論じても限界がある。深く理解するためには脳(認知能力)というハードの理解が不可欠なはずだ。
後半になるとやや強引であったり結論を急ぎすぎていると感じる部分もある。例えば死や道徳に関する議論は「どのように進化してきたか」の推測に終わっており、認知とは別の議論になってしまっている。しかし全体としては積極的に根拠を示して論じている。「デュルケームは○○と主張した」と言うような先人の発言を議論の根拠として挙げるタイプの宗教学には不満だったので、この点には大いに評価したい。不足している箇所はこれからさらに明らかになっていくだろう。
全ての宗教研究がこの方向から行われる必要はないが、ハードの理解と自然科学のより強い実証主義は宗教の理解の大きな助けとなるだろうし、それらの理解に欠けた次世代の宗教研究者は厳しい淘汰圧にさらされるのではないだろうか。