上巻の質感溢れる濃密な物語から、下巻に期待したが、期待外れだった。全体構想に問題があるのではないか。
下巻の前半は主人公の感傷が延々と語られる。"良"との偽装交換劇の後の展開は、更にセンチメンタリズムの嵐である。本作の結末が原子力発電所襲撃に収斂する事は誰の目にも最初から明らかだが、それを決行する主人公と友人の心理が不透明で感情移入できない。"良"の死から、いきなりの原子力発電所襲撃は展開の飛躍が過ぎよう。襲撃シーンを慌てて最後に詰め込んだかのようである。発電所の設備や襲撃計画の描写は相変わらず精緻で、「黄金を抱いて翔べ」を思わせるが、それが却って読む者に空疎感を与える。コンクリートで囲まれた原子炉の蓋の解放が物質社会への風刺に繋がり、それが主人公の心の解放の象徴となる意図は理解できるが、如何せん、襲撃計画が唐突過ぎて違和感が拭い切れない。
上巻の曖昧模糊としながらも濃密なサスペンス劇と下巻の性急過ぎる襲撃計画がアンマッチで、構想の混乱を感じさせる作品。