"断続平衡説"の提唱者グールドの遺作となってしまった作品。アメリカで根強いキリスト教原理主義者による「創造論」に対する闘士としても著名なグールドが、科学と宗教の関係について論じたもの。科学万能を主張するのでは無く、科学と宗教との間に越えられない一線がある点を土台にしている点にグールドの人柄が窺える。
本書の中心概念は「NOMA(Non-Overlapping Magisteria)原理」と言うもので、平たく言えば、科学と宗教のような二律背反に見える概念が、別の領域として両立し得るという考え方である。尚、マジステリウム(Magisteria)とはカトリック用語で、"教えの権限の範囲"と言う程の意味の由。本書を書くに当たって、カトリックの専門用語を基本概念に使用する辺り、グールドの練達した書き手ぶりを示している。グールドが主張する所は、「科学と宗教は別個のマジステリウム」だと言う点である。そして、さりげなく「科学的な結論と聖書の解釈との間に矛盾があるように見えたら、聖書の注釈を再考した方が良い」と付け加えるのを忘れない。先達であるダーウィンとハクスリーに関する挿話は、NOMAの本質に迫って感動的である。グールド自身は無宗教なのだが、宗教の価値自身は尊敬しているのだ。そして、「十全な人生観を構築するためには、科学と宗教という2つのマジステリウムへの洞察を統合する」事が必要だと述べる。この時点で邦題に対する回答は出ており、「共存できるか ?」ではなく「いかにして共存するか ?」が真の命題となる。ここでやっと、現在のアメリカの多くの州で進化論が教えられていない点に対する批判に入るが、現教皇パウロ二世は進化論を認めているのである。グールドはアメリカの現状を、一部の原理主義者が科学のマジステリウムに介入しているからだと指摘するが、NOMA理論により、これを科学vs宗教(原理主義者)の闘争とは見做さない。両者の対話が必要だと言う。以下、科学のマジステリウムの心理面をダーウィンを例に取って詳説する。最後に上記の対話法について「和協主義」を中心に情熱を込めて語る。
科学にとって永遠の課題とも言える宗教との共存を論じた本が遺作になるとは運命的なものを感じる。グールドの科学観・人生観が味わえる心に残る良書。