いくつかの意味で素晴らしい本である。
まずは冒頭、三島由紀夫を決起・自決に至らしめたものの正体が明快に解き明かされるところから話は始まる。それは、日本を日本たらしめていた「神としての天皇」という神話であり、敗戦によって天皇から”神”としての意味が抜き取られてしまったことにより、「日本人」の崩壊が始まったことに亡国の危機を感じてのことであった。
この三島に狂気とも思える行動を取らせたのが、三島に憑依した二・二六事件の中心人物であった磯部浅一であった。
二・二六事件を起こした青年将校たちとともに、明治維新から対米英戦争へ至る時代の中で、神話を失いつつあった日本に警鐘をならすもうひとつの存在として突如現れたのが出口ナオであった。彼女は後に大本教を作り、戦前の日本に大きな影響を及ぼすことになる。
これらの伏線を経て、以降は昭和11年に発生した二・二六事件を巡る、純粋に国の行く末を憂える青年将校たちと、金に支配され大財閥や新興財閥と癒着して大陸での利権を争った政治家および皇道派と統制派の間の複雑極まりない争いを詳細に辿っていく。
この本の素晴らしい点のひとつは、出口ナオに降りた「神」の語る言葉と、三島由紀夫に憑依した二.二六事件の中心だった磯部浅一が三島由紀夫の手を借りて書きつづった文章である。これらは、ともに日本文化の精神の危機を訴えて衝撃的であるとともに、日本人の心の奥深くに働きかけてきて、心が震えるような痛みと郷愁を呼び起こす。
もうひとつは、戦前の軍部の暴走を単純に「軍が悪い」とする論調が多いが、実際には皇軍派、統制派両派の背後でうごめく、大財閥や新興財閥からの資金によって、軍首脳も政治家も動かされた結果だということを明らかにしている点である。そして、それら財閥の背後にいたのが、クーン・ローブ、モルガン商会などの欧米の国際金融資本なのだ。磯部はそれを見抜いていた。
国際金融について書かれた本は多いが、日本にまでこれほど言及したものは他に見たことがない。ただ、大財閥が彼らと関係があった、という記述のみで、具体的な陰謀の構図までは示されていないのでタイトルは不適切(5次元文庫化するに当たって無理矢理改題したため)だと感じた。
それはさておき、明治維新によって一気に西洋文明を取り入れた日本も他の先進諸国と同様に、財閥を介して明治の早い段階から欧米の世界金融資本の支配下に入っていたという事実は衝撃である。
世界金融資本との関わりについてさらに詳しく書かれた続編を期待したい。