文藝春秋から『さゆり』が出るころ、アメリカで原作者のゴールデン氏を告訴した日本人がいるというので話題になった。この時点でこの本の著者の名が世界中に知れ渡ったわけである。それからすかさず、海外数か国で Geisha, a Life と Geisha of Gion が瞬時に刊行された。これだけの手際、段取り、やり手の欧米系出版ブローカーが陰で差し金をひいていることは間違いない。
この著者の本にいろいろ反感を持つ読者もいると思うが、著作が著者の生の姿を伝えているわけではないことが、以上の経緯からわかると思う。著者は軽はずみな面があるにせよ、むしろブローカーによる被害者なのである。『芸妓峰子の花いくさ』では、かくいう自分も著者の鼻持ちならない傲岸不遜ぶりにあきれたものだが、だんだん事情がわかってくると、不本意にもおどらされる素朴な京都のおばちゃん像が浮かんできて、同情させられるのである。あの本や『祇園の教訓』から比べると、本書は日本人向けにアレンジされているようで、格段に謙虚だし、読後感も悪くはない。
一般に聞くことのできない芸舞妓の考え方や風習について、かつての当事者から教えてもらうのは、それなりの重みがある。ただ、顧客情報については、花街の常であるように、墓場に持って行ってほしかった。ナイショがあったほうが、男も女も魅力的なのだから。