『ロビンソン漂流記』(ダニエル・デフォー著、吉田健一訳、新潮文庫)の主人公、ロビンソン・クルーソーは第一級の経営者である。あなたが子供のころ、絵本か子供向けの本で読んだように、孤島にただ1人漂着したロンビンソンは、最初はやれやれ命だけは助かったと喜ぶが、だんだんとこれは大変なことになったということが分かってくる。しかし彼は挫けない。そして、1人でも生き抜いていけるように、非常に現実的な態度で生活建設を始める。難破船からいろいろな物を見つけてきて、それを島のさまざまな自然条件とうまく組み合わせて、人間らしく、といっても最小限のことだが、生き続けていくための生活条件を整えていこうとする。
ロビンソンは孤島で道具や資材を着実に計画的に収集し、それと自分の労働力とを合理的に組み合わせて、いわば経営体を作り上げている。すなわち、資産配分を実に合理的に実行している。しかも、そこから生まれてくる余剰の一部は蓄積して拡大再生産を行う。そのうえ、伝統にいつまでも縛られているような感傷はどこにも持ち合わせていない。つまり、彼にとって一番大切に思われたものは、金儲けではなく、人間らしい生活をしていくために必要な財貨をできるだけ効率よく生産すること、すなわち経営そのものだったのだ。
『社会科学における人間』(大塚久雄著、岩波新書)の中で、大塚久雄はロビンソンをこのように高く評価しているが、この著者が自分の考え方の方向に私たちをぐいぐいと引っ張っていく力は相当なものだ。さらに、ロビンソンをそれぞれの立場から評価している2人の巨人――マックス・ウェーバーとカール・マルクスの思想のエッセンスもおのずと理解できるように仕組まれている。連続講演の原稿をそのまままとめたものなので、大塚久雄という得がたい最高の先生が私たちに直に語りかけてくる感じで、知的興味を満足させてくれる。