大変面白かった。本書は大学の講義形式で3章13講に分割されている。第一章では科学に
おける社会学の位置、科学における理論やモデルの説明。社会学に理論はあるか?社会学
の伝統的なアプローチ手法など。
第二章では社会学の歴史を概説するが、美術や数学など脱線が多い。精神分析批判や自然
選択の解説は社会学の入門書では異例。数学や美術のモダニズムと社会学の興隆を結び付
けるのはこじつけではないだろうか。説得力ある因果関係は何も示されていない。
大きく取り上げられている社会学者はデュルケームとウェーバーのみ。
第三章では近代以降の社会学の思想や社会学の未来について。
本書の特徴は著者の社会学に対する危機意識を反映した幅広い科学分野からの知識の応用だ。
著者は「理論」の重要性について強いこだわりを見せる。これはおそらく分野に一貫した指
針を与えるバックボーン(理論でもモデルでも研究プログラムでも良いだろう)が必要と言
うことではないだろうか。その有望な候補のひとつとして著者はダン・スペルベルの「表象
の疫学」を挙げている。表象の疫学とは概念が人から人へと伝えられるプロセス、およびそ
の内容が文化や社会を作るという概念。たぶんより重要なのは、スペルベルは社会学を認知革命
の影響を受けなかった希有な残念な分野であるとみなしており、社会や文化は人間の脳の産物で
あり、人間の行動を理解するためには脳の認知構造、特に生得的な構造を見なければならないと
主張していることだろう。本書ではそこまで踏み込んでいないが、その影響が見え隠れする。
全体的に言えば入門書としては異色で、著者のスタンスが色濃く反映されているが、初学者を
対象としているからこそ、社会学の現状を冷静に批判的に捉え、様々な分野へ目を向ける事の
(それが言語学の哲学と社会思想への応用で起きたような、うわべだけのものでは意味がない
のだが)重要性を述べた一冊として非常に有益だと思う。