本書は市村弘正氏(思想史)と杉田敦氏(政治理論)の著作となっているが、市村氏によるドキュメンタリー映画の批評に、二人の対談が解説として収録されたものである。その意味で、これは市村氏の著書と考えたほうが誤解は少ないようである。また批評の対象が社会問題のドキュメンタリー映画であるため、映画批評としてよりも、社会批評としての性格が強い。
ここで取り上げられているテーマは、薬害、公害、原子力発電所などである。特に原発の問題を論じた「'世界について」は、まさに「現代日本をめぐる対話」であり、少しも古びたところはない。市村氏は言う。「原発に話を戻せば、前にも技術の「不可逆性」ということもいいましたし、そういう側面があることは認めますが、巨大技術をどうあつかうか、というのはあくまで社会の側の問題だ、と思います」。
「無縁社会」という言葉が流行る以前に、本書で「社会の喪失」について論じられていたことを考え合わせると、市村氏の思考の深さと着眼の鋭さに脱帽せざるをえない。具体的な社会問題の批評を通じて、現代日本のあり方を考えさせる一冊である。