今年(2008年)で御年八十八歳を迎えて今尚元気に活躍を続け、アメリカSF界に君臨する永遠の抒情詩人ブラッドベリが2002年に発表した全25編収録の傑作短編集です。本書には80年代以降に書かれた作品と古くは50年代に遡る作品群が収録されていますが、今年読んだ短編集「猫のパジャマ」でも感じたように執筆時期が隔たっていても古めかしさなど一切なく全く違和感を感じずに読めると思います。本短編集を読んで冒頭からすぐに気づいたのは、老人が泣くシーンが一杯出て来る事で、涙を見せない作品でも恐らく涙腺が相当にうるんでいるなと推測できる部分が多々ありました。きっと著者自身の高齢化が「老い」というテーマをより身近にしたのだろうと思いましたが、それだけでなく「時の撚り糸」という作品を読むと著者が20代の若さで既にこのテーマに深い関心を寄せていた事が窺えます。私のお奨め作品を字数の都合で5つだけ紹介します。『埋め合わせ』:零落して落ちぶれた老人をタイムマシンで四十年前の過去に連れ戻し敗残者となる前の自分である前途洋々たる青年に対面させて激励します。『19番』:ゴルフ場で出会った自分と同名の老人が過去を失い、自分に気づいてくれないのが切なくて涙が止まりません。『タンジェリーン』:とあるレストランで七十代の老人の胸に戦時中に出会った幸薄い兄貴分サニーの思い出が鮮烈に甦ります。『時の撚り糸』:泣き声を上げる老人と無邪気にはしゃぐ子供の声を聴きながら、自分の過去と未来が時間を超えて混線していると気づかず中年の男は寝苦しい夜を過ごします。『炉辺のコオロギ』:我家にFBIの盗聴器コオロギを仕掛けられた夫婦が理想の生活を装い束の間の幸福な時を過ごします。老境に達し飾らないありのままの人間性を描き上げ、更に円熟味を増した著者の味わい深い短編をこれからもずっと読み続けられますようにと願っております。