良く言えば、政治背景をキチンとプロッティング設定していて安心して読める反面、どうしても内容的には同時代を繰返し描いている
筆者だけに、マンネリの観は拭えません。とはいえ、記述そのものは、一時の「設定秀逸で先行しているが、本文は退屈」という状況
から脱して、円熟味を感じさせる迫力のあるものとなっています。
本巻では、サモア攻略の後方遮断を巡る攻防と、(おそらく筆者が一番描きたかったであろう)戦艦・加賀の獅子奮迅の戦闘シーンが
白眉ではありますが、反面、モスキートの金属化版コピー「天河」等は、別作品で、同じくモスキートの日本版が「金星」発動機で
空冷化して活躍していることも考えると、善し悪しは別にしてチグハグな感を拭えません。マーリン発動機が日本で使える(ライセン
ス生産か輸入かはともかくとして)ならば、史実の「銀河」のマーリン搭載型の方が有効にも思えます。また、モスキートは主脚に
ラバーサスペンションを使う等まで徹底した金属材料の使用限定を狙ったものですから、外形はそのままに金属化、というのを英空軍
でも使用、というのは些か無理があるのではないか、と・・・
しかし、なんと言っても本巻が大コケなのは、247ページの「飛燕」のイラスト。同シリーズの5巻で、「彗星」艦爆にマーリン発動機
を搭載しながらイラストはダイムラーベンツ搭載型を載せてしまい(機首の形状が全く異なるものになる)、シリーズ6巻の表紙絵で
いかにも「訂正しました」と言わんばかりにマーリン搭載型の渾身の架空機イラストを載せて雪辱したというのに、またもや「飛燕」
ではダイムラーベンツの側面吸気・倒立12気筒型としか思えないイラストになってしまっています。(排気管位置で一目で判ります)
著者校では気付かなかったのか、月刊状態で手が回らなかったのか… 筆者は体調を崩して入院されたそうなので、その影響かも知れ
ませんが。
折角、日本の単座戦闘機にマーリン発動機が使える、という状況設定ですから、かの零戦の設計者、故堀越二郎氏をして「かのエンジン
で戦闘機を設計するのは、航空機設計者の夢」とまで言わしめた条件が揃っています。B‐29の登場も時間の問題という状況下にあって
「マーリン搭載の高性能局地戦闘機(迎撃機)=雷電(仮称)」の登場を期待したく思います。勿論、正確なイラストと共に。