まず、物語そのものの設定や、描写そのものは勢いがあって、筆者の筆致も手慣れた感じです。この巻については素直に面白い。
ただし、戦略目標を絞りこんだ数日間の戦況の描写で、勢いでまるまる一冊使ってしまった、という感じです。読み終わって、
サテ、物語の世界観の中で、落し所をどこにもっていくのか。特に、大型戦艦をほぼ使い潰してしまった日本海軍は、新戦艦と
しては(史実の)信濃くらいしか新造できそうにないのに、筆者お得意の大鑑巨砲の殴り合いでは、驚異的な撃たれ強さの
モンタナ級が米国では『量産』が可能です。更にはエセックス級空母も。
日本の戦略的位置が、マリアナ諸島を確保すればB29の戦略爆撃を受けずに済む、という状況が確保できた時点で、既に豪州
独立派への対抗が大義名分であり、その支援ルート遮断が確実になっており、更には新鋭戦艦竣工やドイツからの譲渡主力艦も
確保している英国に対しては、いかなる理由で同盟を続けるのか?という必然性はないように思えます。
思う存分、大和型vsモンタナ級の激突を書いたは良いが、日英共に再編に四ヶ月〜半年を要する、という状況において、巻末
の「第九巻に続く」とは・・・ 結局は豪州での地上戦で英国がアメリカの覇権・拡大主義を頓挫させねば終わらない物語で
ある以上、日本は傷が浅かった空母部隊の再編が終わり次第、筆者お気に入りのシャルンホルスト級巡洋戦艦を直衛艦にして
真珠湾攻撃、更に特型潜水艦でのパナマ運河封鎖、でしょうか。アメリカの継戦意志を挫くとすれば・・・?
また、重箱の隅ではありますが、作中に登場した新鋭機「烈風」。これも筆者のお好みの『火星零戦』ですが、どう見ても機首
上面の吸気ダクトが見当たりません。史実の天山艦攻並の張り出しが必要なはず。どうもこのところ、マーリン彗星・飛燕(DB
エンジン搭載型の機首)や彩雲(ラジエータなし)等と併せて、イラストが粗雑です。この時期の三菱製戦闘機なら単桁構造の
はずが、零戦の機体構造そのものにしか見えません。せめて主翼だけでも史実の雷電を少し弄ったものにすればどうだったか、
と思えるのですが。