その頃、英国はまさに大廈の崩れる様を見るようで、それを支える一木は見いだせないように思った。英国病とまで言われた時代である。ところが、その後サッチャー首相という鉄の柱がみごとに国を支えて、国運回復に向かったから立派である。
一方で、イタリアを見ていると、国家というものはどんなことをしていてもそう簡単にはつぶれるものではないという感を強くしたものだった。とにかく国家の要である首相はめまぐるしく交代し、さっぱり安定しない。たしか中央銀行が保有している金を質に入れてドイツから借金をしたことがあったが、当時の私にはこれはもうめちゃくちゃな話に思えた。それでもイタリアはしれっとして発展を続け、ひと頃は1人当たり国内総生産(GDP)で英国を追い越したりした。
『破産しない国イタリア』を書店で見つけたときすぐに買ってみた。イタリアという国に対する私の長年の疑問に、ずばり答えてくれそうなタイトルに惹かれたのである。
内容も私の期待に応えるものであった。「この本に登場するエピソードは、すべて実在の人物と実際にあった出来事をもとにまとめた」ものであると筆者は書いているが、もしこの断り書きがなければにわかに事実とは信じ難いものが含まれているところがイタリアなのであろう。
毎週1度、公務員である夫のオフィスに立ち寄り、夫に対する付け届けを買い物かごに入れて持ち帰る妻、1998年の某日白内障の手術を受けた8人のうち4人が感染症で失明した公立総合病院、誘拐を生業とし株式会社誘拐集団と呼ばれる組織の存在、保険金目当てで毎年約20万件の虚偽の自動車事故報告が行われることなどなど、通常の日本人には想像の範囲を超える。
コネ社会ぶりもすごい。就職から入院から何から何までコネがものをいうようだ。もちろん社会的批判はあるし、コネ利用にはしかるべき「御礼」も伴うのだが、社会の潤滑油として受け入れられているのだろう。よくよく考えてみれば、アングロサクソンのいうネットワークというものだって、コネと紙一重だから、どこでも似たことはあるのだろうが。
それでもイタリア人はそんな社会を逞しく生き抜いていく。一人ひとりが生き抜く芸に優れているのだ。それがイタリアの活力の源泉となっている。イタリアの中小企業が強い理由がよく分かるような気がした。
(日経ビジネス2000/1/31号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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