名作『レベッカ』『鳥』で知られるサスペンスの女王デュ・モーリア女史の秀作集。日本では待望久しく42年振りに復刊された本書は、時の狭間に埋もれた幻の書と言えます。内容的には、現代にあっても風化しない普遍性を持った人間ドラマが描かれており、因果応報・自業自得の結末ですが、無器用だけれど憎めない人々の姿が胸を打ちます。
『アリバイ』は、日々の生活に倦怠を覚えた男が、見知らぬ街角の下宿屋を訪れて、そこに暮らす孤独な境遇の女と赤ん坊を殺そうと思い立ちます。自分を画家と偽って次第に親密さを増して行きますが、ある日男が旅に出ると告げた時に不幸が始まります。旅立ちの朝、女に荷物を託された男が自宅へ帰る道で、警官が彼を追いかけ・・・・。本当は勇気も無いのに踏み込んだ気晴らしの果てに男を待ち受ける運命とは・・・・。
『青いレンズ』は、眼の手術を受けた女が病院で包帯を外して見ると、何と周囲の医者たちが皆動物の仮面をつけています。良く見れば、それは仮面では無く直接首につながっていて、訪れた恋人も動物に見えるに及んで彼女は恐怖に怯えます。病院から逃げようとした彼女は結局連れ戻されてしまい、翌朝新しいレンズをつけて目覚めるのですが・・・・。
他の四篇も、思いがけない運命に翻弄される社会や人間を、鋭く冷徹な視点で捉えた現代の寓話です。地味だけれど、ほろ苦く味わい深い大人の小説を読みたい方には、最適の一冊だと思います。