1987年、北朝鮮の工作員により飛行中に爆破されたという大韓航空機爆破事件。遺留品が機体の一片すら発見されず、北朝鮮犯行説も工作員「金賢妃」の証言しか証拠がないと言う。
本書ではこの事件の詳細を追いながら、北朝鮮犯行説に疑念を呈し、その中で「金賢妃」は仕立て上げられた犯人ではないかと主張する。真犯人を指摘するまでには至っていないが、冒頭部では、韓国情報機関による犯行をにおわす。
記述は詳細で北朝鮮犯行説を退ける著者の指摘も説得力があるかに見える。一歩引いて見ると、国家間での情報戦の凄まじさを感じることができ、それは日本も埒外ではないことが理解できる。
それはいい。問題は、本書が、北朝鮮犯行説を退けるにあたって、「金賢妃」の日本語教師として浮かびあがってきた「李恩恵」なる日本人の存在、ひいては北朝鮮による日本人拉致疑惑について、真っ向否定している点だ。拉致疑惑すら作られた偽情報、策謀だというのだ。北朝鮮によるミサイル発射実験、拉致問題以来の、日本政府の硬直した北朝鮮政策を非難するまでする。
初出の1999年時点での主張であればまぁ許容できないではないが、2004年の文庫化にあたっての「まえがき」でもこの点については全く触れていない。拉致問題を認めることは、本書の論旨に沿わないにしても、こうしたスタンスにより、かえって内容に説得力を欠いてしまったと言わざるを得ないと感じた。