「ウイルス=病原体」というような浅はかな思い込みをしていた(私のような)読者にとっては、ガラリと生命観が変わる本。
こう言っても誇大○○になりはしないだろう。
本書の原題は「ヴァイロリューション」。ウイルスとエヴォリューション(進化)の造語である。
書き出しから100頁くらいまでは、スムーズに入っていけた。途中にけっこう科学論文を要約したような平板なくだりが顔を出するので、読み物としては、いまひとつ読みやすくない。でも、とにかく知的刺激に満ち満ちた展開。途中で読み飛ばしたくなる誘惑がそのうち消えた。
「ウイルスを生命体として見ないとウイルスは理解できない」と著者は説く。
ウイルスはあらゆるゲノムに侵入できる能力をもち、いったんゲノムに入り込めばそれを支配する。ウイルスのゲノムと宿主のゲノムが結合するのだ。
びっくり話の連打。頁を繰る手が止まり、思わず叫び声を上げそうになった。ここでは、そんなトピックの内、2つだけピックアップしておく。
●現代人の遺伝子の46%は、過去に感染したウイルスの残骸か、ウイルスに関連した因子、ジャンク(がらくた)DNAである。
●ヒトとチンパンジーが共通祖先から分岐した後の100万年くらいはお互いに交雑するハイブリッドだった。
私なりに頭を冷やして考えてみた。
30億年前から生物と共生してきたウイルスである。単に感染症の運び屋にすぎなかったと思うことは、どう考えてもあまり合理的ではない。
実際、ウイルスはヒトの胎児を守っているのだそうだ。
ウイルス研究は近年になって急速に進歩しているという。未解明な部分に光が当てられると、まだまだ面白いことがわかってくるにちがいない。
「異種交配」は進化の原動力だという。ダーウィンの進化論に書き足さなければならないことのひとつは、この点にあるのだそうだ。
異種交配によって新たな種を生み出せば、遺伝子の多様性が増える。ナルホド、環境に対応していくには、道理にかなった戦略といえるだろう。
多様性が増せば、気候などによる生存条件の大きな変化があるとき、その変化にうまく対応して生き残れる可能性も増すというわけだ。
実際、小麦、サトウキビ、コーヒー、綿などはどれも交配種だそうだ。
うまくいけば人類の寿命が大幅に伸びるのでは。しかも健康に生きられるかもしれない……読後感はかなりさわやかである。
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このジャンルの概説書としては、『
ウイルスと地球生命 (岩波科学ライブラリー)』(山内一也)という本がつい先ごろ(2012年4月)出版された。
本書の出版後に判明した新事実を含め、包括的な内容がコンパクトにまとめられている。