細かい話しになるが、ノベルス版は全1冊で900円台であるが、文庫版は上下2巻で1,100円台なので、ノベルス版のほうがお得である。
さて本作品は、74年の映画化後、3度テレビ化されている。1度目は80年前後(犯人:田村正和 刑事:仲代達也)で、2度目は90年初め(犯人:佐藤浩市 刑事:田中邦衛)であると思うが間違っていればご免なさい。3度目は04年で(犯人:仲居正弘 刑事:渡辺謙)が演じている。
本のほうは3回は確実に読んでいる(各々中学・高校・大学時代に1回ずつ)。そしてテレビ化の度に、読んできたと思うので、最低6回以上は読んでいる計算になる。
80年前後のテレビ化の時、犯人役はまだしも、刑事役の仲代はイメージ的に適わず、脚本も陳腐だった。三木謙一が伊勢の映画館で犯人の姿を発見するくだりが、当時の映画ニュースの中で見つけるのは無理(約20年の時間差がある)があり、原作とも違う。
90年初めのテレビ化はその点、原作にも忠実で犯人・刑事役共好演していたと思う。04年ものは時代設定そのものに無理がある。但し、ラストは見応えあり。
80年、90年のテレビ化の内容はよく憶えていないが、04年ものはハンセン病のハの字もでてこない。犯人の父は傷害・殺人事件を起こした人物の設定になっている。根底にハンセン病という、重い課題を持ったテレビ化は無理なのだろうか。
となると、ビジュアル的にはやはり74年の映画化に軍配が上がることになる。ハンセン病を正面に据え、松本清張をして、映画のほうが上だと言わしめたからである。74年作であるが、脚本は60年台半ば頃には出来ていた。山田洋次の脚本集を高校時代に図書館で見つけ、映画化の前に読んだ記憶がある。スッキリとしていて(関川と和賀、恵美子とリエ子を合体させている)良い印象を受けた。しかしこの映画の成功は何といってもラスト30分にわたる父子の巡礼シーンになるだろう。
本はここにおいて、映画に一歩も二歩も譲った感があるが、本当にそうだろうか? その辺のところを再読して確認をしようと思ったのだ。
知能明晰な探偵が快刀乱麻に解決をするわけではなく、読者と同じ視点に立っているから、本はゆったりとしている。歯がゆさはあるものの、心地良さもある。しかし、考えてみたら、「亀嵩」も「紙吹雪の女」も本の半ば前に既に書かれているのだ。いかにその後の展開が錯綜しているのかが判る。
勿論安易な偶然もないではないが、許容範囲といえよう。また50年も前の時代設定なので、古めかしさは否めないが、これも許容範囲といえよう。
今回読んで、改めて思ったことは犯人の冷酷さである。映画やテレビでは内面の苦悩を、ほぼ全面に押し出しているが、本にはそれが一切ない。
従って、犯人に感情移入することもない。むしろ、苦労に苦労を重ねて、最後に犯人逮捕に向かう刑事に拍手喝采を浴びせたいほどだ。昔懐かしいながら、それでも、再読、再々読……に耐える推理小説の傑作であることに間違いはない。