野村版映画は傑作だった。
あのラスト30分で、涙しないものはいない。
故丹波哲郎の熱演もみごとだった。
本原作は、どうしてもその映画版と比較される運命にある。
だから、映画版の出来がすばらしかった分、原作の評価が低くなることがしばしばだ。
しかし、本作は、映画とは別物である。
文庫で上下巻、全集では一巻まるまるが本作だったほど、長い作品だ。
その中身は、映画ではカットされて描写されなかったエピソードや、微妙な心理描写などで詰まっている。
連載作品の常で、途中だれるところがあるし、冗長な記述がしばしば見られるなど、不満な点をあげればそれなりにある。
結構緊張感が続かないところなど、最たるものである。
だが、本作の内包するテーマはとても大きい。
差別意識というものは、現代でもなくならない。
いや、むしろ今のほうが、仲間意識が強く、他者を排除しようとするエントロピーは強いのではないだろうか。
そういう意味では、普遍的なテーマを持つ作品といえるだろう。
清張作品、特に長編は、竜頭蛇尾だとよく指摘される。
本作も確かにその傾向はある。
しかし、こんなに大きなテーマをこれだけ徹底したエンタティメントにする能力には脱帽だ。
そしてこのテーマには、まさにこの長さが必要だったのである。
二組の親子関係の崩壊、という、ある意味エディプス・コンプレックスともいえる裏テーマ。
清張ははたして意識していたのだろうか?