戦争という類稀れな集団的“体験”を通じて、ウチナーンチュの内的アイデンティティを探求する在沖の作家、比嘉慂の初期作品集。95年に小学館から上梓された同名作品集の復刻版である。後の『
カジムヌガタイ』まで続く、事実をベースにフィクションの創造力を広げていくスタイルは既に確立されているが、作画やコマ割り、プロット展開などには、まだ生硬さも残る。その一方で、『母について』や『砂の兵士』など、作者の両親の実体験に基づいた作品なども収められており、作者にとっても一際、思い入れの深い作品集ではあろう。
中では特に、95年版にあった『御願さびら』との差し替えで収録された『土盗り』が注目される。比嘉作品としてはやや珍しい喜劇タッチの作品で、この作者の意外な作風の広さを示すと共に、笑いの中にもきちんと、沖縄戦の“影”や、ユタを中心としたウチナーンチュ独特の精神文化が描き込まれている。近年の『
美童物語』のシリーズへとつながって行く系譜は、案外、このあたりがルーツなのかもしれない。
それにしても、特にこのような初期作品集を見ると、比嘉慂の作品を、その作画力だけで評価しようとするのは難しいことだと改めて思う。正直、比嘉慂の作画力そのものが優れているとは思わないのだが、ところが逆に、もっと巧みな作画者が比嘉慂の原作を漫画化すれば今以上に魅力的な作品になるかというと、おそらく決してそんなことはないとも感じるからだ。比嘉の作画は単に「個性的」というレベルを超えて、やはりその作品世界全体と分かち難く結びついている。この作画あってこその比嘉ワールドなのだと、改めて感じた。
本書の巻末には著者の作品リストなども掲載されていて、それを見ると『土盗り2・3』など、未だ単行本化されておらず、中々読むことが難しい作品がいくつか、あるようである。それらの作品についても是非今後、単行本化されることを願ってやまない。