戦前の日本にとって満洲というのがどのような位置を占めていたかを知る人は少なくなってしまった。日本人が満洲を意識したのは、日清戦争の折である。しかし日清戦争の戦果はロシア等の三国干渉で取り上げられ、日本人は臥薪嘗胆を強いられることになる。日露戦争に勝利した日本は満鉄という形で満洲に関わることになる。この折の日本の満洲支配は極めてSoftで、児玉源太郎の言葉を借りるならば”王道をもって覇道をなす”ということになる。これに対して満州事変以降の日本の満洲支配は軍部が前面に出て、”覇道をもって覇道”をなすというHardなものになる。満洲帝国の創立者といえる人物がいるとすれば、間違いなく石原莞爾である。これに対して甘粕は満洲の夜の帝王と呼ぶにふさわしい。石原は東条英樹に疎んじられたおかげで、極東軍事裁判にかけられることもなく、天寿を全うしている。甘粕は満映などに携わることになり、だんだん夜から昼へと役割を移していくが、最後は迫り来るソビエト軍の軍靴の音を遠くに聞きながら、自殺している。結局彼は彼が担った阿片密売を始めとする満洲帝国の暗部をすべて背負って地獄へと旅立ってしまった。石原も甘粕も非常に個性が強く、満洲帝国はこの二人を抜きに語ることはできない。本書はこうした事項への信頼するに足る入門書となっている。是非一読願いたい。