知財業界の重鎮による”卒業論文”である。内容はキャノンでの実務経験から政策提言まで及び、知財に携わる人間としては一度は手にすべき本である。同様のテーマを扱うものとしては今後おそらくこれ以上のものは出ないであろうと思われ、"ザ 知財戦略"の本と言っても過言ではあるまい。但し、以下(2)。
本書の主な読み方は二つある。読み手としては知財実務者と知財部門の責任者・担当役員。
(1)権利形成のやり方、秘密保持契約・ライセンス契約の留意事項、特許訴訟での注意事項等のいわばテクニカルな事柄を学ぶ。著者の実体験に裏打ちされた実務に役立つアドバイスが随所にある。
(2)自社とキャノンの知財戦略のベンチマーク。但し、キャノンの高収益性に知財戦略が少なからず奏功しているのはおそらく間違いないが、同社の事業ドメインはカメラと複写機であり、その知財戦略の普遍性は未検証。それに留意さえすれば、有益な情報源となろう。
日本では知財戦略本部の設立、米国を中心とするパテント・トロールの跋扈など、2000年初頭から始まった”知財バブル”も、ここに来てようやく終息してきたかに見える。これは歴史が判断することであるが、本書は知財バブル時代を総括した証言となる可能性を秘めている。これが本書の(潜在的)第三の読み方。